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退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」 - Design Stories

某月某日、ロンドンでは和食が食べることが出来なかったので、美味しい和食を食べに行きたい、自分へのご褒美に、と思った父ちゃんだった。
しかし、家の近所にある和食店はアジア系資本の「コーベスシ」とか「ヤキジャポ」とか「うまいらーめん」などの、奇妙な日本語名の店しかなく、美味しい和食をやっている(知っている店という意味)は右岸まで行かないとならず、疲れがマックスなので、今日のところは、近場で済ませたい、・・・。
ついでに野本の店も休みであった。がっびーん。
そこで名案が!
知り合いのフレンチ、中谷シェフにメッセージを送ってみたのだった。
「あのー、シェフ、和食が食べたいんだけれど、そういう無理は訊いてもらえるかな」
ええと、本誌日記に度々登場するレストラン・NAKATANIはぼくがこのパリで心地よいと感じる美味しいフレンチの一つで、ミシュランの星付きなのだ。
日本人同士だから、頼みやすいし、カウンターがあるので、そこでこっそり食べればいいか、それに日本人だから、和食くらい作れるだろうという、なんとも横柄な思い付きの依頼であった。
もちろん、無理ですよ、何言ってんですか、と言われたら、そこまでなのだが、なんと、いいですよ、お待ちしています、というお返事。(前回は、満席で断れたので、ラッキー)
おおお、マジか!!!
疲れ切った身体には美味しい和食が一番なのである。
ということで、休みの野本も呼び出すことにした。あはは。

退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」

ボンマルシェ・デパートの裏の方にあって、銀座で30年ぐらい一人でやっている頑固なシェフのお店という店構えなのだけれど、知る人ぞ知る名店でもある。
いつも、ハイクラスなお客、リッチな服装の紳士淑女が集まる隠れ家のようなフレンチになっている。
決してゴージャズな内装でもないし、シェフがカウンターの向こうで料理をしているので、高級店には見えないが、エレーヌ・ダズーロというミシュラン古参シェフの元で長年右腕をつとめあげたシェフ、たいへん、評判もいい。
大人の、静かな、隠れ家レストランということになる。
ところが、そこにレンタル自転車で、やってきたのが、あの吞もちゃんこと野本、であった。白髭男が、笑っていた。ああ、もう飲んでるな。
この男、パリ市内、いつも自転車で移動している。危険極まりない。
大失敗だったのは、飲むと大声で騒ぎだす野本を呼んでしまったことであった。
「あ、あー、あれ、ほれ、なんかさー、お婆さんが、ほら、あの、だからさ」
だいたい、その日も昼間から飲んでいたようで、来店するや、話の脈絡もなく、たくさんのお婆さんに囲まれた夢を見た、とか、言い出し、ぼくもシェフも、最初から困惑。
「あのな、お酒のんだら、自転車はやめてくれ。なんかあったら、あの美しい奥さんが路頭に迷うことになるから」
というのも、ホールにはスーツとドレスをまとったこの辺の名士のような方々がいっぱいいたのだ。場違いな酩酊オヤジの登場で空気の流れが一変した。
「な、な、なーに言ってんだよ、大丈夫、バカ言ってんじゃないよ」
声がでかい! 
しかも、満席なのである。フランス人は、そもそも、人に迷惑をかけないようにぼそぼそ、と話をする。
カウンター席はホールから少し離れているとはいい、野本の声は通るので、つつぬけなのであった。
「シー。静かにしろよ」
ぼくは彼が、あー、とか、おー、とか騒ぐ度に、忠告をした。
「いいですよ。大丈夫です」
と一応、中谷シェフは尊敬する先輩シェフだから、言うのだが、それをいいことに野本の声はどんどんヒートアップしていった。
「ほらぁ、本人がいいんだから、いいんだよ、なに言ってんだよ、こんなのたいしたことない。バカ言ってんじゃないよ」
もはや、酔眼なのである。昼間からパレットという左岸のカフェで呑んでいたらしい。
バカ言ってんじゃないよ、は、最近の彼の口癖であった。
ぼくらの前には箸がおかれ、そこだけ、関東のはずれの居酒屋みたいになっているのだった。
ミシュラン星付きレストランなのに、入口周辺の4席しかない木のカウンターはまるで「深夜食堂」のような雰囲気、赤ちょうちんの居酒屋にいるようなぬくもりある世界感。しまった、中谷しゃんに迷惑かけてる、と思ったのだけど、もう、遅かった。

退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」

退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」

退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」

で、シェフが作ってくれたのは、鮟鱇の春菊ソースがけだったり、和辛子の煮豚風ハムだったり、枝豆のおじやだったり、神戸牛のオーブン焼きだったり、乾燥トマトだったり、まじで小皿和風料理が次々の、手元にある材料を工夫して和テイストに変えて、バターとか使わないで、胃に優しいものを、出してくれたのだった。
いや、実に美味かった。
「でも、うどんが食べたい、蕎麦でもいい」
「ありませんよ」
すると野本が、バカ言ってんじゃないよ、と騒ぎだすので、
「しー」
っと、口止めし続けた父ちゃんであった。☜口止め、日本語間違えているが、そんなイメージ・・・。
「バカ言ってんじゃないよ、小さい声で喋ってるよ」
「のもちゃん、君ね、営業妨害だよ。友だちの店でそんな声だしたら、あそこにいる紳士淑女はもう二度とNAKATANIに来なくなる」
「えええ、おれ、妨害しとるんかぁ!!」
「しー」ということで、もう、家に帰すことにしたのだった。ふー、こいつを呼んで疲れが倍増。呼ぶんじゃなかった。でも、仕方がない。それが友だちというものだ。
「自転車で帰る」
と言い張るので、ぼくはタクシーに放り込むことにした。
「おい、もう一軒、はしごするぞ! パリは眠らないのだぁ、あはは」
大騒ぎする野本をのせてくれるタクシーを探すのがまた大変であった。
自分の店では、黙々と仕事をして、借りてきた猫みたいな癖に、中谷シェフの前では大騒ぎをする、空気を読まぬ男・・・。ますみさん(奥さん)、なんとかしましょう。
「あの、ええと、おれって、パリにいる日本人シェフに嫌われてるんかな、最近、誰からも連絡ないんだ、ううう」
タクシーに乗る前に、不意にこういう寂しいことを言いだす男であった。
「大丈夫だよ、俺がいるから。寂しい時は、連絡しろ」
「あはは、バカ言ってんじゃないよ」

退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」

※ これはロンドンライブに来た時の一枚。こんなに美しい奥さんがいるのに、フラフラ、が好きな吞もちゃん。

退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」

※ ぼくはふらつく野本をタクシーにのせるまで、本当に大変だったのだ。やれやれ。友だちは疲れるわい!

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
実に困った四国出身のおやじであった。これがまた、自分の店で焼き鳥焼いている時は、話しかけても返事もしないつまらない男になるのだった。人の店で大声を出し、自分の店では無口で通す、酒癖の悪い野本だが、許してやって頂きたい。中谷は嫌な顔一つせず、野本を大切に扱っていたので、実はたくさんのシェフ仲間に愛されている男なのであることは、加筆して、筆をおくことにします。ご清聴ありがとうございました。
さて、父ちゃんの次の大イベントは、2月28日からはじまる伊勢丹アートギャラリーの個展になります。

退屈日記「美味しい和食が食べたくなってフレンチのシェフに無理を言った」

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