
中西会長は「ライブ市場のほぼすべてが消失しかねない」と危機感を募らせる
新型コロナウイルスの影響で、音楽ライブの中止が長引いている。主催者団体であるコンサートプロモーターズ協会(ACPC)の中西健夫会長(ディスクガレージホールディングス代表)は「ワクチンと治療薬が開発されない限り、今まで通りのライブには戻れない」と語った。
チケット大手のぴあは、5月末まで公演中止が続けば、ライブ・エンターテインメント市場の4割近くが消失すると3月に試算した。中西会長は「実際はもっと厳しい。ライブ市場のほとんど全てが消失するのではないか。チケットの売り上げだけではなく、交通、宿泊や飲食などの関連産業まで考えれば影響はもっと大きい」と危惧する。
夏の野外フェスティバル中止が相次いでいることを受けて「大きなフェスであれば100以上の会社が関わる。地方フェスで30~50億円、大きいフェスになると100億円以上の経済効果がある」と指摘。遠隔地から訪れる観客の飲食や宿泊、観光、物販といった売り上げが地域経済を潤す波及効果が大きいと説明する。それだけに「地方創生の一つだった。2000年代に入りフェス文化が根付いて、まさに成熟しようとしてきた時期だけに喪失感が大きい」と残念がる。
「ライブ産業を下支えしているのは、運営スタッフとして働くアルバイトや、楽器の輸送やセッティングを担う『ローディー』たちだ。ツアー公演を支えるサポートミュージシャンもいる。彼らの収入が突然ゼロになった」。フリーランスの音楽関係者の窮状を訴える。
国や自治体は、ライブハウスへの出入りを控えるよう呼びかけているが「ひとくちにライブハウスと言っても、収容人数は50人~3000人まで幅広い」と説明。「手弁当でやっているようなところもある。もし1年間ライブがなければ潰れてしまう。ライブハウスから生まれてきた文化が無くなってしまう」と危機感をにじませる。
ACPCは、日本音楽制作者連盟や日本音楽事業者協会と音楽ライブの公演再開に向けたガイドライン作りを進めている。(1)無観客ライブの中継や配信(2)人数制限などの対策を取った公演(3)全面的な再開――の3段階を想定するが、「ワクチンと治療薬が開発されない限り最後の段階には戻れない」。
感染予防策を講じた上でのライブも「いつからできるかはわからない」。「座ってみる映画などと違い、ポピュラー音楽のライブは静かにみるものではない」という難しさがある。観客の間隔を1~2メートル空けるなどの措置をとれば「2000人収容できる会場に400~500人程度しか入れられない。ビジネスとして成立しない」。
ツアー公演では、アーティストとスタッフが全国を回る。ガイドラインでは「公演当日だけではなく、リハーサルや地方会場への移動についても考えなくてはならない」。地域や自治体の実情に応じた対応も欠かせない。「全国的なガイドラインを、各地域のプロモーターが自治体と話し合いながらカスタマイズしていくべきだ」
「リーマン・ショックや東日本大震災のときは『こんなときだからこそライブを見に行こう』という空気があった。今は閉塞感を発散したくても『集まってはいけない』という状況だ」と葛藤する。しかし「未来がないビジネスだと思われたら人が集まらなくなる。ライブは内需拡大の基幹となる」と力を込めた。
危機に脆弱な業界構造も変えていかなければならないという。「海外には音楽関係者向けのユニオン(労働組合)や基金がある」と指摘し「事態が長引いたときに、影響を受ける事業者を救済するスキームを作らなくてはいけない。公益性のある基金を設立することも検討したい」と語った。
(北村光)
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May 28, 2020
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新型コロナ:音楽ライブ、再開へのハードルは - 日本経済新聞
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