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2020年のYMO評 エキゾ、電子音楽、ポップスの視点から3人が紡ぐ - CINRA.NET(シンラドットネット)

YELLOW MAGIC ORCHESTRAというあまりに巨大すぎる存在について、1991年生まれの私は編集者として語るべき言葉をほとんど持っていないということを最初に告白したい。

1978年にデビューしたYMOは、社会が高度に成熟を果たした1980年代という時代と複雑で密接な関係にあるということーー音楽やアートの領域にとどまらず、ニューアカデミズムをはじめとする思想、セゾングループを中心とする広告文化、またはファッションや雑誌文化、メディア環境などといった広義の「文化」全般にまで浸透し、影響を与えてきたということを、私は1992年12月に刊行された『STUDIO VOICE』の「YMO環境以後」という特集で知った。同誌で定義するところの「YMO環境」というのは、ある種「現象」とも言えるようなYMOを取り巻く状況、あるいは文化的な土壌であるとざっくり理解している。

バブル崩壊後、YMOが最初に再結成する前年に刊行された同特集上で、ライター / 編集者の三田格は、「“YMO環境”のすがすがしさとはまさに外国文化のコンプレックスを克服すると同時に経済成長後に地方の人が抱くように東京のイメージを転覆したような快感に裏付けられていたのではないだろうか」と書いていた。

氏のテキスト、特に前半部分について、YMOの今日に至る歴史的な評価の理由を端的に言い表しているように思える。YMOは、日本人による音楽が、コピーではなくオリジナルかつ最先端のものとして世界で受け入れられた最初の例であるーーこの事実こそ、いまなおYMOが日本の音楽文化の頂点にあるとして、敬われる理由の一つであろう(もちろん御三方のYMO以前 / 以降の充実した活動ありきではあるが)。本稿では、40年以上の時間が積み重ねてきた権威的な面や多様な言説に敬意を表しつつ、あえて不躾ながらそれらを一度引き剥がして、いわゆる「アルファレコード期」(1978~1983年)のYMOを、現代の、主に日本の音楽との「接続点」のみにフォーカスして提示したい(それもいたずらに賞賛するのではなく)、という立場をとる。

今回、松永良平、柴崎祐二、吉村栄一の3名を書き手に招き、それぞれの視点とテーマで執筆していただいた。世代を超えた志高いミュージシャンたちが、自ら臆面もなく「YMC(Yellow Magic Children)」を名乗り、生バンド編成を主体とするコンサートを開催し、ライブ作品『Yellow Magic Children #01』を発表することを通じて、YMOという音楽精神に新たな「身体」をもって挑みかかったように、本稿で現代の音楽文化における「『YMO環境以後』のその後」を適切に位置付けできていたら、何よりだ。

メイン画像:Original Photo ©Masayoshi Sukita

YMC(わいえむしー)<br>イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の結成40周年となる2018年、そのお祝いをしたいと考えた有志により結成されたトリビュートバンド。バンドマスターの高野寛をはじめ、YMOの薫陶を受け、その遺伝子を引き継ぎつつもオリジナルの表現をしているアーティストが集結した。バンドメンバーはYMOやそのメンバーのソロ活動への参加の経験が豊富な、高田漣、ゴンドウトモヒコ、沖山優司、白根賢一に加え、新世代の星でもある網守将平。さらにゲストバフォーマーとして、宮沢和史、野宮真貴、カジヒデキ、坂本美雨、片寄明人、DAOKO、HANA、細野悠太も参加して、2019年3月14日、東京新宿文化センター大ホールで一夜限りのスベシャルコンサートを行なった。YMOのカバー曲と、YMOに影響を受けた自分たちのオリジナル曲をまじえたそのコンサートは、YMOチルドレンによる、YMOチルドレンのための祝祭の空間となり、客席にはYMOのメンバーたちの姿もあった。
YMC(わいえむしー)
イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の結成40周年となる2018年、そのお祝いをしたいと考えた有志により結成されたトリビュートバンド。バンドマスターの高野寛をはじめ、YMOの薫陶を受け、その遺伝子を引き継ぎつつもオリジナルの表現をしているアーティストが集結した。バンドメンバーはYMOやそのメンバーのソロ活動への参加の経験が豊富な、高田漣、ゴンドウトモヒコ、沖山優司、白根賢一に加え、新世代の星でもある網守将平。さらにゲストバフォーマーとして、宮沢和史、野宮真貴、カジヒデキ、坂本美雨、片寄明人、DAOKO、HANA、細野悠太も参加して、2019年3月14日、東京新宿文化センター大ホールで一夜限りのスベシャルコンサートを行なった。YMOのカバー曲と、YMOに影響を受けた自分たちのオリジナル曲をまじえたそのコンサートは、YMOチルドレンによる、YMOチルドレンのための祝祭の空間となり、客席にはYMOのメンバーたちの姿もあった。

「YMOが醸成し、当時の人々の生活に提示した『エキゾ』とは何か?」テキスト:松永良平(リズム&ペンシル)

「『エキゾ(あるいはエキゾチカ)音楽』って、どんなものですか?」とぼくよりずっと若い人に真面目な顔で聞かれたことがある。

ぼくは普段、レコード店で働いているので、1950年代末に発表されたマーティン・デニーやエスキヴェルといったアーティストのレコードを例に出して説明をしたりする。宇宙ロケットの開発やジェットセット時代(ジェット機の発達により世界旅行が簡単になってきた時代)に人々が見た夢、あるいは東西冷戦を背景とした現実逃避願望が、ハリウッドのSF映画や冒険映画のようなイメージで展開された「ここではないどこか」を求める想像力豊かな音楽だ。

“Sake Rock”や“Firecracker”など収録のマーティン・デニー『Quiet Village』を聴く(Apple Musicはこちら

ところが、それだとあんまりピンとこないのだという。音楽としての魅力や源流としての価値は理解できる。だけど、彼らが感じているエキゾという気配は、どうもそれだけじゃない気がするらしいのだ。つまり、彼らは「現実離れ」した音楽としてのエキゾを求めているのではなく、いま自分がいる場所や暮らしと隣り合わせにあるはずの表現としての「生活のなかのエキゾ」を探しているのだった。「ここにある何か」のなかに「ここではないどこか」を発見することが、彼らには切実なのだ。

じつはアメリカで生まれた「エキゾ」という感覚は、「遠い世界の出来事を想像する感覚」から、この日本で「生活を異界化させる感覚」に変化したとぼくは感じている。もっとも重要な鍵を担う表現を続けてきた音楽家のひとりが細野晴臣であることは言うまでもないが、そうしたエキゾ感覚が広く享受された要因は、やはり1978年に細野が結成したイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の成功にあった。

細野晴臣『泰安洋行』(1976年)を聴く(Apple Musicはこちら

商業的な見地で言えば、1979年から1980年の間にYMOが吹かせたものは、まさに旋風だった。1stシングル『テクノポリス』(1979年10月 / オリコン9位)、2ndシングル『ライディーン』(1980年6月 / 15位)、そして2ndアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(1979年9月 / 1位)、3rdアルバム『増殖』(1980年6月 / 1位)、ライブアルバム『パブリック・プレッシャー』(1980年2月 / 1位)。

この2年こそが、今回のコラムのテーマである「YMC(イエロー・マジック・チルドレン)」が最初に大量に生まれた、いわゆるベビーブーム期だ。今回リリースされた『Yellow Magic Children #01』の参加者にも、高野寛、片寄明人、宮沢和史、カジヒデキ、高田漣らを筆頭に、ずばりその世代や前後のブームを物心つく頃に体験したミュージシャンが少なくない。

もちろん、YMOの歴史にもエキゾのオリジネイターのひとり、マーティン・デニーがいる。YMO結成前に細野晴臣が抱いたビジョンは、デニーの曲“ファイアークラッカー”をシンセサイザーでディスコにして全世界で400万枚売るというものだった。1stアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』(1978年11月)では、細野のコンセプトに呼応して坂本龍一が“東風”、高橋幸宏が“中国女”を作曲している。彼らなりに感じ取った「異世界への憧れ=エキゾ」という感覚がそこにはあった。

YELLOW MAGIC ORCHESTRA『イエロー・マジック・オーケストラ』を聴く(Apple Musicはこちら

だが、1979年に入って、そのエキゾが彼らのなかで変異を遂げる。坂本作曲の“テクノポリス”、高橋作曲の“ライディーン”はともに、東京、あるいは日本という意識が背景になったものだ。ヴォコーダーが連呼する「TOKIO」がシンボリックにこだました“テクノポリス”、もともと江戸時代の力士から取った「雷電」というタイトルに、テレビアニメ『勇者ライディーン』を引っ掛けたという“ライディーン”。細野がYMO以前から提唱していた「イエロー・マジック」という思想が、YMOというバンドの体内を通過して、日本の現在地に帰着した瞬間だった。

YELLOW MAGIC ORCHESTRA『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』を聴く(Apple Musicはこちら

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February 17, 2020 at 04:01PM
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