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紅白で「復活」する“AI美空ひばり”が音楽業界にとって注目の理由 - Business Insider Japan

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美空ひばりが紅白で復活すると伝える紅白歌合戦の公式サイト。

撮影:伊藤有

過去の音源・映像をもとに、AI技術によって、かつて「不死鳥」と呼ばれた美空ひばりが2019年末の紅白歌合戦に出演する。亡くなったアーティストをテクノロジーの力で、歌声やイメージを再現することには賛否両論あるが、紅白という“国民的”な番組でそれを行うことは、その意義を世間に広く問うこととなる。

「AI美空ひばり」はどのようにつくられたか

NHKスペシャルで放送されたAIでよみがえる美空ひばり

出典:NHK

2019年9月29日に放映されたNHKスペシャル「NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり」で初公開された“AI美空ひばり”。

その新曲「あれから」をプロデュースしたのは、生前最後のシングル曲「川の流れのように」の作詞を手掛けた秋元康。 肝心の歌声は、深層学習技術(ディープラーニング)を用いた「VOCALOID: AI」を開発したヤマハが担当。 4K・3Dの等身大のホログラム映像上では天童よしみが振り付け、衣装は後に晩年の美空ひばりのトレードマークともなった「不死鳥」コスチュームを手掛けた森英恵が担当した。

VOCALOID(ボーカロイド)と言えば初音ミクで知られる音声合成技術だ。VOCALOID: AIはAIを活用したその一種で、ディープラーニング(深層学習)によって歌手独特の癖やニュアンスを含んだ歌声を加える。メインのAIのほかに、音色、ビブラート、音程、タイミングの4つの機能に特化したAIが配置されている。

目標となる歌手の歌声を収集し、そこに含まれる音色や歌いまわしといった特徴を抽出する。今回のプロジェクトでは、ヤマハの第一開発研究部が美空ひばり本人の歌や話し声の音源をデータとして使用して、ボーカルパートとセリフパートを作成した。「この楽譜の文脈を与えたらどう歌うか」というのを想定して歌う点がこのAIの最大の特徴であるという。

開発者のインタビューによると、 異なる音源による音質のばらつきを信号処理技術によって前処理を行ったり、音源分離の技術を用いて歌声の音源に混じった 伴奏音を取り除いたり、ボーカロイドの開発過程で培った歌声のための信号処理技術だけでなく、高度なレベルの複数の技術が要求されたという。

亡くなったアーティストのイメージ使用を巡る議論

VOCALOID: AI

「VOCALOID: AI」の仕組みの概念を説明するヤマハの資料。

出典:ヤマハ

AIで作られた美空ひばりは一体誰のものか? AIを制作したエンジニアやプログラマーか、美空ひばりの遺族のものか? 著作権は発生するのか。未だ法整備が追いついておらず、多くが曖昧になっているのが現状だ。

美空ひばりの権利関係については、養子縁組をした息子の加藤和也氏がひばりプロダクションで管理している。今回のプロジェクトでは加藤氏も関わっているので、権利上の問題はない。しかし、テクノロジーを使って故人である音楽家のイメージや演奏表現を再現することには、賛否両論がある。

例としては、海外では2016年に亡くなったプリンスが2018年のスーパーボウルのハーフタイムショーにホログラムという形を取って出演するという情報が出回った際に、多くのファンや共演者の反対に遭ったことが挙げられる。

結局、故人が1998年に行ったインタビューでバーチャル・リアリティーに対する否定的なコメントをしていたこともあり中止になったが、生前懸命に作り上げたイメージを作り変えられたくないアーティスト本人の意思、それを尊重したいというファンや関係者らの感情も問題となった。

特にこれは、プリンスがアーティストによる作品や自身のイメージのコントロールの重要性を主張し続け、音楽業界の「偏った商業主義」と愚直とも思えるほど長年戦ってきたアーティストだったことにもよる。

1989年に亡くなった美空ひばりの場合、本人も録音作品や映像などの著作物の管理については想定できていたと思うが、CGもAIもボーカロイドも一般的ではなかった当時、テクノロジーを組み合わせて歌手としての自分が死後に再現される今日の状況は想像できていなかったはずだ。

これが存命中の歌手であれば、本人がコントロールすることもできるので悩むこともなかっただろう。美空ひばり本人はどう思っているのか、これで本当によかったのか、我々は想像することしかできない。彼女はもうこの世界にはいないのだから。

技術力を計るベンチマークとして見る「歌唱力」や「表現性」

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紅白歌合戦の公式サイト。

出典:NHK

そもそも美空ひばりという天才歌手の歌を真似ることは簡単ではない。

生前、ひばりから直に歌の指導を受けていた歌手の森昌子は、器用なものまね芸でも知られているが、ひばりのようには歌えないとテレビ番組で過去に語っている。

囲碁の世界ではAIが人間を打ち負かしているが、歌唱表現においてはAIは美空ひばり本人より劣っていることはあっても、それを超えるということは想像し難い。囲碁の対局のようにゴールがはっきりしていないということもあるが、長年のキャリアを持ったプロの歌手の視点から見ても真似ができないと感じるほどの芸当を、AIエンジニアが演奏家のアドバイスをもらいながら作ったとしても、たった数カ月で超えられるとは思えないからだ。

AIと時代を超えた歌姫である美空ひばりは、最初から別物として見るべきなのだ。

そういった視点で見たとき、美空ひばり本来の高い歌唱力や表現性は、「AIの技術力を計測するためのベンチマーク」として考えることもできるだろう。今回の紅白出場は、現時点で到達した最高レベルの技術を使ったステージを試す場でもあるのだ。

最新技術の披露の場として存在感を高める紅白

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「VOCALOID: AI」の公式サイト。

出典:ヤマハ

近年の紅白歌合戦は、その年の代表的な楽曲を聞くためというより、テレビというメディアを通してその年にどんなことがあったのかを振り返るための番組として、その役割を変化させてきたように思える。

そしてPerfumeのようなアーティストを代表として、日進月歩で進化していくテクノロジーを活用した舞台表現を見る場としても、その存在感を増していることが言えるだろう。

放送メディアとして、NHKはドローン活用やシームレスMRなど特に視覚効果の面で、Perfumeと紅白という場を使ってここ数年さまざまな実験を行ってきた。2018年の紅白のパフォーマンスでは、カメラの位置姿勢情報を使ってレーザーを制御し、放送された画面内で特定の位置にレーザーで描画された任意の図形が留まる(会場内では見えていない)演出を行っている。

今回のAI美空ひばりもそういった試みの一つと言えるが、歌そのもので実験的な試みを行っている点で大きく異なる。

今回はプロデューサー秋元康が候補となった200曲以上の中から新曲「あれから」を選んだという。楽曲そのもに関して言えば、企画に合わせて昭和の歌謡曲の延長にあるような曲が選ばれたという印象を受ける。

ただ、テクノロジーを使ってAIに歌わせるだけではなく、どうせなら令和の時代に合わせて音楽的にもアップデートした美空ひばりも見たかった。そうでなければ、ある日ラジオから聞き流すようにこの楽曲を聴いた人がいたとして、AIであることに気づかず「あれ、こんな美空ひばりの曲あったっけ?」と当惑するような紛らわしい存在で終わってしまうと思うからだ。

美空ひばりが昭和という時代に寄り添ったように、AIの美空ひばりが平成と令和という時代をまたいで生きる我々にどう寄り添うことができるのか、というところに私は興味がある。

今回の令和最初の紅白出演がベンチマークとなって今後アップデートされていくであろう、これからのAIひばりにも期待したい。

(本文敬称略)

(文・類家利直)


類家利直:2011年からスペイン・バルセロナを拠点にヨーロッパのクラブシーン、音楽系テクノロジーやMakerムーブメントなどについて執筆。元々音楽教育が専門で、大学院ではコンピューターを活用した音楽教育を研究テーマに修士号を取得、青森県内の県立高校で音楽科教諭として勤務した経験を持つ。近年は広くテクノロジー教育事情について取り上げる機会が増えている。

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