2023年の春に開始を予定している、原発処理水の海洋放出。
新たな風評の発生も懸念される中、福島の漁業を盛り上げようと若い世代が奮闘を続けている。
福島・いわき市にある水産会社「かねいし商店」の4代目・山野辺正哉さん。東京・豊洲で2年間、卸売りのノウハウを学び、2022年4月に家業を継ごうと戻ってきた。
高く評価される福島の魚「常磐もの」を全国へ
親潮と黒潮がぶつかる潮目で水揚げされ、「常磐もの」と品質を高く評価される福島の魚。山野辺さんは、新鮮な「常磐もの」を買い付け、全国の市場に卸している。
この記事の画像(16枚)かねいし商店・山野辺正哉さん:
常磐ならではの魚が多くて、毎日が楽しいですね。地元の魚を売るって事に対して、やっぱり熱が入りますね
幼いころから祖父、そして父親に連れられて親しんだ漁港。「常磐もの」の魚は、常に身近な存在だった。
しかし、そんな日常が一変した。野辺さんが中学生の時に起きた東日本大震災、そして原発事故。水産会社も津波で甚大な被害を受け、一時休業を余儀なくされた。
かねいし商店・山野辺正哉さん:
被害は大きかったですね、こっちの工場は。自分の家業が心配だなと、小さいながらに思ってましたね
それでも、抱き続けた思いは変わらなかった。
かねいし商店・山野辺正哉さん:
中学生でしたけど、将来は自分がいわきの魚を売っていきたいなとは思っていました
家業を継ぐため、大学卒業後は東京・豊洲で修業を積んだ山野辺さん。福島の魚も取り扱い、「常磐もの」の質の高さを再確認したが、辛い経験もした。
かねいし商店・山野辺正哉さん:
最初の頃は風評被害。福島産は嫌な顔されたりとかはありましたけど
原発事故による風評被害。「買わない」と直接言われた事もあった。
かねいし商店・山野辺正哉さん:
一言でいうと「悔しい」ですね
しかし、その経験が今の原動力になっている。
かねいし商店・山野辺正哉さん:
自分が継いで、自分がいわきの水産を変えようかなと思いました
「美味しい」を伝えることが風評被害を薄める
山野辺さんには、思いを同じくする心強い仲間がいる。高校の先輩でもある小野崎雄一さん。2020年から家業の鮮魚店に戻ってきた。
(Q.どんな後輩ですか?)
株式会社おのざき・小野崎雄一さん:
活きがいい後輩です!山野辺さんの思いを受け止めて、僕らは「常磐もの」の魅力を発信しながら販売していきたいと思います
福島の漁業・水産業を担う2人。未来について語り合うが、取り巻く環境は依然として厳しいまま。
株式会社おのざき・小野崎雄一さん:
どんどん廃業してますね
かねいし商店・山野辺正哉さん:
継がせないという親もいますね
株式会社おのざき・小野崎雄一さん:
加工屋さんが減っちゃったもんね
かねいし商店・山野辺正哉さん:
減りましたね、震災後
原発事故の後、福島県沖で続けられてきた試験操業。魚介類の安全性が確認され、2021年から本格操業への移行期間が始まったが、漁獲量は震災前の2割程度に留まっている。
また、長く続いた試験操業と大きく減少した漁獲量から、廃業を決めた漁師・水産加工業者なども多く、担い手や後継者不足も問題となっている。
そして、2021年に政府が方針を決定した、原発処理水の海洋放水。
菅前首相(当時):
政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に、海洋放出が現実的と判断し、基本方針を取りまとめました
東京電力は、ほとんどの放射性物質を取り除いた処理水を国の基準以下まで薄め、沖合1kmの地点で放出する計画だが、漁業者からは新たな風評の発生が心配されている。
株式会社おのざき・小野崎雄一さん:
僕らがいかに「安全なんですよ」というのも大事なんですけど、それを言い過ぎると何か逆に不安になっちゃうと思うので。自分達で風評をぶり返しているようなものなので。
僕らは本当に美味しいんだよという事を、愚直に伝えていきたいと思っています
かねいし商店・山野辺正哉さん:
やっぱり魚を全国に広げていく。それをやる事で、風評被害を少しでも薄れる形をとっていきたいと思います
ひたむきに「常磐ものの美味しさを全国に広げる」…そのひとつ一つの積み重ねが、福島の漁業の復興と未来につながると山野辺さんは信じている。
(福島テレビ)
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