北海道函館市湯川町。函館駅から車で約15分、函館の中心部から少しはなれた「湯の川温泉」という温泉街があるエリアです。「日本一空港に近い温泉街」と言われるこの場所に、2018年にオープンした「Tune Hakodate Hostel & MusicBal」というゲストハウスがあります。
コンクリートと木の組み合わせが目をひく外観が特徴的です。入り口をくぐると、黒やグレーの床・壁に無機質なコンクリートのクールで落ち着いた空間に、木やドライフラワーなどのあたたかみのある素材をあしらった店内がみえてきました。
「Tune」という言葉は「調律」を表すことからわかるように、このゲストハウスのキーワードは「音楽」「人々の調和」。コンセプトを「国や言語が違っても、音楽は世界共通言語」とし、音楽、人々の出逢い、宿泊を組み合わせた個性的なゲストハウスです。音楽で人々が調和するってどういうことなのでしょうか?音楽と旅・宿泊を組み合わせる意義ってどんなことなのでしょうか?
ここでゼネラルマネージャーとして働いていらっしゃる羽賀英俊さんにお話をうかがいました。
音楽活動に明け暮れた学生時代
羽賀さんは東京都豊島区目白出身。東京という都会で長く過ごした羽賀さんが北海道函館市に来たのはどうしてなのでしょうか。まずはその人生についてお話をきいてみたいと思います。
この音楽をコンセプトとしたゲストハウスで働く羽賀さんは、もちろん音楽に大変造詣が深いのです。
ゼネラルマネージャーとしてお店を管理する羽賀英俊さん
「音楽が大好きになったのは、中学校2年生のとき、友人がカラオケで歌っていたヒップホップミュージック(ラップなどの音楽のジャンルの1つ)がきっかけでした。それからラップの曲を仲間と作ったりとのめり込み、高校時代はヒップホップ専門の部活を立ち上げました。軽音楽部に入れば?と言われましたが、『ロックやポップミュージックとヒップホップは囲碁と将棋くらい違うジャンルなんです!』と校長に直談判して、最終的には粘り勝ちで部活を作るくらいの熱意がありました(笑)」
そんなふうに音楽漬けの学生時代を過ごす中、羽賀さんご自身がアーティストとしての活動を行う転機となる出来事が、ある日おとずれます。
「17才の僕が当時好きだった、創作活動もしているヒップホップの作曲家が、下北沢で絵の個展をやるという情報を知って個展に足を運んだときのことです。ギャラリーで本人に突然『ここでラップやってみてよ』と言われて、お客さんが絵を見ている中でビート(音楽の拍子、リズム)をかけ出したんです」
・・・なんとも突然の出来事ですが、そんないわゆる「無茶振り」にどう対応したのでしょう?
「お客さんがいましたから、緊張で足がふるえながらラップしましたね。。でもそうしたら作曲家の方が『面白い』と気に入ってくれて、プロダクション入るお話に進むに至りました!その後、僕はアーティスト活動を続けることと並行して、アーティストのマネージメント業務もやらせてもらいました。実はDaokoさん(紅白歌合戦にも出場した、女性ラップシンガー)の初代マネージャーも担当させてもらったこともあります」
なんと!大物歌手のマネージャーと、今では非常に貴重な経験をされていた羽賀さん。
壁にはレコードを貼り付けた装飾が
その後、大学進学の進路を選ぶときも軸になったのは音楽だったそう。歌詞や曲を書く中でさらに表現力を高めたいと思っていた羽賀さんは、「もっと深く人の心を知る必要があるなと思って、心理学専攻に進みました」と話します。
「結局自分の選ぶことは最後には音楽に繋がっていて・・・これからも音楽にはずっと関わっていく、離れられない運命なのかなと思ったりもします」
ゲストハウスでの出会いと、ある日の出来事
元々旅をすることも好きだったという羽賀さんは、北海道〜大阪間を約3カ月間ヒッチハイクだけで移動するという旅に出たのだそう。身なりをとにかくキッチリすることを心がけたといい、5分以上止まってくれる車を待ったことがないという逸話もお持ちです。その旅の最中、「ゲストハウス」や「人」との出会いがあり、縁あって北海道にとどまることになるのです。
「北海道を旅行中、当時あった札幌のゲストハウス『Wagayado 晴-HaLe-』に宿泊者として訪れたとき、スタッフとして働いていた男性と旅の話を色々とするようになったんです。『北海道でどこか住む場所はないかな?』と相談したら『ここに住んじゃえば?』と言われて」
そして羽賀さんがこのゲストハウスで出会い意気投合したのは、現在のTune運営会社の上司となる粕谷さんでした。
しばらく滞在することになったそのゲストハウスには、色んな国籍の人が混じり合い、ご飯食べたり、本を読んだりと自由に過ごせるリビングがある、ゲストハウスではよく見かける光景が広がっていたのだとか。
粕谷さん。現在は各地のゲストハウス企画等で北海道中を飛び回っているそう
「ある日、ギターが得意なメキシコ人の男の子が宿泊者としてやって来て、リビングで皆が知っているカーペンターズなどの曲を弾いてくれたんです。その瞬間、皆バラバラのことをしていたその場が自然と一体になって、ギターの演奏が始まったほんのその1~2分で、『個が集団になった』感じがしたんですよね。僕もオーナーも『音楽ってやっぱりすごい』と改めて実感した出来事でした」
「音楽の力」の大きさを感じたお二人は、仲間達と宿や場作りをやっていこうと計画し始めることに。ただ、単なる宿だけではビジネスにならないと考え、どうしたら事業として成り立つか全員で話し合いを続けたのだそうです。
そして、元々ゲストハウスのスタッフとして働いていた粕谷さん・ゲストハウスを利用していた羽賀さんを中心に、ゲストハウスと音楽をかけ合わせた事業展開のお話が広がっていきます。
DJをしている羽賀さん。ターンテーブルもお手のもの
仲間とゲストハウスの立ち上げへ
そうして函館市湯川町で営業を始めたTune Hakodate。建物は会社で購入し、元々保険会社だった物件を改装したもの。フロント、ステージ、バーのある1Fは元々車庫だったのだそうです。
現在は、コロナウィルスの影響によりイベント開催は控えめとなっていますが、以前は年間300日以上イベントをしていたというので驚きです。
営業を始めてからのゲストハウスはどのような場になっていたのか、気になった取材陣は質問をしてみました。
「実は旅行客よりも地元の函館の方が普段使いしてくれるケースが多いです。お客さんで、特に旅行客の方は、全員が音楽が好きな方ばかりというわけではありません!なので最初、お店でライブイベントが行われることに驚かれる方もいます。ステージをみたときに『あれ?来るところ間違えたかな?』と思われる方もいたようです(笑)」
宿泊施設に来たと思って訪れたら、ライブハウスだった?!というのは、入った瞬間かなりびっくりしそうですね。
イベントをしていた当時の光景。奥がステージになっています
「シンプルに考えると、静かに過ごすはずの宿泊施設で爆音で音楽が鳴っているという反対のものを組み合わせているんですよね。なので、ここにチェックインしてもらうときにスタッフがお客さんと打ち解けてお店に良い印象を持ってもらうことで、コンセプトである音楽にも興味を持っていただけたら・・・と思っているんです」
また、羽賀さんはこうも話します。「僕が旅行して初めて行く土地に行ったら、すごく緊張すると思うんです。大げさに言うと、だまされるんじゃないかとか・・・相手がどういう人かわからないまま自分のことをさらけ出すのは怖いという気持ちもあると思います。なので、僕自身はオープンに、フランクに接して、できるだけ柔らかい印象で相手に安心してもらえるようにしています。ホテルライクな接客はおもしろくないですしね。そこで出会った人が面白かったらまたそこに行ってみたいと感じてもらえると思いますし、1番は『ゲストハウスやスタッフのファンになってもらうこと』ですね」
チェックインのときに仲良くなると、音楽がある環境にすっと馴染んでいただきやすいのだとか。また、音楽以外にも、もう1つ人との距離を縮めるためのツールがあるのだそう。
「海外からの宿泊客では、お互いに中々言葉が通じないケースもあります。音楽に加えてお酒も楽しんでもらえたら、気持ちがほぐれて、急速に心の距離を縮められることが多いんです!なので、ゲストハウスにはバーも作り、楽しく話しながら過ごしてもらっています」
頻繁に旅にでることは中々できないので、ここで旅や音楽のお話を聞くことに刺激を受けると話す羽賀さん
音楽とお酒は、どちらも抱えている旅の緊張や不安をほぐし、楽しい気分にさせてくれるツール。それらを備えるTune Hakodateはまさに旅を彩る場所といえそうです。
ハコとしてのTune Hakodate
さて、ここからはTune Hakodateの「音楽」に焦点をあててお話を聞いてみます。
店内1Fにステージがあり、ライブができる設備やドラム等を本格的に備えています。普段は宿泊客がセッション(演奏者が集まって自由に演奏)をするというよりも、イベント開催がメインなのだそう(ここからはTune Hakodateやライブハウス・ホールを総称して、音楽イベントができる場所として「ハコ」と呼びます)。ブッキング(イベントをハコ側が企画して、アーティストにオファーする)よりも、オファーで『ハコを使わせてください』と依頼が来るケースがほとんどだといいます。
「函館の音楽市場は、雰囲気のある小さめのハコと、金森ホール・函館アリーナのような数百~数千人規模の大きなハコで2極化している印象があります。小さなハコでは著名なアーティストを呼ぶことは難しく、アリーナだと呼ぶことができてもお客さんとの少し距離が遠くなりますよね。その中間として、ウチは何か役割を持てたらいいな、と思っているんです」
取材日のステージの様子。アコースティックギター、エレキギター、ピアノ、ドラム、揃っています
Tune Hakodateの収容人数は120人。近い距離を保ちながら、ある程度の人数を収容できるくらいの広さがあります。
今まで開催したライブの中で、中でも印象に残ったライブについてたずねてみました。
「スキマスイッチのボーカルの大橋卓弥さんのライブですね。ライブ自体ももちろんですが、同じくらい当日の光景も嬉しいものでした。それまではほとんど毎日20〜30人くらい人がライブを観に訪れていましたが、その日は初めて箱の限界キャパで入ったんです。チケットは当日券だったんですが、開始5分位でソールドアウトしました。その日は、うちの『ハコとしての存在意義』のようなものを感じた、大きなターニングポイントでした。今後もライブイベントを再開できるようになったら、うちのハコを使ってもらうことで、函館の文化レベルを上げることに少しでも貢献できたら嬉しいな、と思います」
照明が入ると一気に場の雰囲気が変わります!
札幌のゲストハウスのリビングでおふたりが実感した音楽の力は、さらに大きなものとなりこのTune Hakodateで広がっています。ここでまた音楽を聴きながら、お酒を飲んだり語らったりと、旅を楽しみたい方が日本中にたくさんいらっしゃることと思います。
羽賀さんとTune Hakodateの今後の挑戦
Tune Hakodateはシェアハウス事業も行っていて、10人が入居でき、現在もお部屋はほとんど埋まっているとのこと。
一方コロナウィルスの影響で、ライブイベントを以前通りたくさん開催するということは難しいですが、定期的にイベントを行い、宿泊・バーも日数を減らしながらではあるものの、これまで通り営業を行っています。
こんな風に落ち着いて過ごすことも可能なラウンジスペース
また、羽賀さんご自身は、音楽の事業でこんなことも行ってみたいと話してくださいました。
「うちは音楽プロダクションも備えているのですが、今後は所属アーティストのマネジメント・サポートしていく役割により力を入れていきたいと思っています。具体的には、北海道で活動するアーティストが全国でも活躍できるような繋ぎ役となることですね」
そう、Tune Hakodateはアーティストが所属するプロダクションも持っているのです。アーティスト自身が奮起して東京に出て精力的に活動しよう!とするケースは多いですが、地方にいながら大都市の仕事をひっぱってきてくれる人がいる、ということはほとんどないのが現状。北海道の音楽が北海道で完結するのではなく、北海道と東京などの大都市を橋渡しできる人がいるといいのでは、と羽賀さんは考えています。
「特に自分の中のミッションとして考えているのは、アーティストの地位向上です。友達・知り合いなど近い関係性の方に音楽を頼むときは、無料もしくは少額でお願いできませんか?となるケースが多いようなのですが、それでは音楽でご飯食べていくことは難しいですよね。そんな方々の中にも、『この人はもっと広く知られてほしい』と思うアーティストがたくさんいます。そういう人達にも日の目を当てるのが自分の使命と考えています」
淡々と話してくださる羽賀さんですが、ご自身の人生に「音楽」という1本の筋を通し、やりたいことに対して傾ける情熱は人並み以上のもの。「歩みさえ止めなければ、若いうちはどんどんチャレンジして失敗したほうがいいと思っています」と話してくださいました。
最後に、Tune Hakodateからのメッセージを。「国籍や言語。肌の色や目の色。住む場所や考え方が違っていても、同じ世界に僕らは住んでいる。話す言葉がわからなくても、見た目が自分と違っても、音に乗ればきっとわかり合える。さぁ、音楽で繋がろう。人生を彩ろう。」
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November 19, 2020 at 08:00AM
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音楽は世界共通言語!旅を音楽で彩る。Tune Hakodate くらしごと - kurashigoto.hokkaido.jp
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