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欧米流を学ぶ中国の音楽教育、日本はこのままだと置いていかれる! - ASCII.jp

中国で今、クラシック音楽の文化が盛り上がりを見せている。確かに、世界の歴史を振り返ると、音楽や芸術が花開くのは、成熟しきった国ではなく、その時代で最も発展中の国だった。東京フィルハーモニー交響楽団の元広報渉外部長で、西洋音楽史や世界各国のクラシック音楽事情やに詳しい松田亜有子氏に、最新の中国クラシック事情を聞いた。

ライトアップされた深センコンサートホール
美しいライトアップで名所となっている深センコンサートホール Photo:real444/gettyimages

中国政府の方針の下、
街ぐるみで音楽教育に力

 中国はすでに、日本をはるかにしのぐ“音楽大国”となっている。中国楽器協会によると、中国の楽器市場規模は470億元と推計され、世界の楽器市場の32%を占める。

「中国・深セン、爆速進化の街でクラシック音楽文化が盛り上がる理由」では、急速に経済成長する都市・深センでのクラシック音楽の隆盛ぶりと、その背景について、東京フィルハーモニー交響楽団の元広報渉外部長として世界各国のオーケストラと交流を持ち、数々の演奏会の企画・運営に携わった松田亜有子氏に解説してもらった。

“新興国”である中国の企業やビジネスマンが国際社会で信頼を得ていくためには、クラシック音楽をはじめとした芸術・文化に関する教養が必須であり、そういう意識で彼らはクラシック音楽に親しんでいるという。

 また、「中国政府も音楽が国力に与える影響を理解している」と松田氏は言う。国の方針の下、街ぐるみで音楽教育に力を入れている例が目立つからだ。

「例えば2017年に深センコンサートホールでは、深セン市福田区政府の援助によってコンサートやコンクール、レクチャー、マスタークラスなどが1週間にわたって開催されましたが、すべてのイベントのチケットは、無料で市民に提供されました。採算を考えたらオーケストラの主催では無理です。国の施策だからできる。中国政府の音楽教育に対する意気込みを感じます」と松田氏。

 音楽教育という観点でいえば、もちろん日本でも学校教育の中にクラシック音楽は入っているが、松田氏が彼我の差を最も感じるのは「オペラの扱い」だという。

言語文化圏を越えて
中国で盛り上がるオペラ

 1600年頃、古代ギリシャの演劇を模倣するかたちでイタリアのフィレンツェで誕生した歌劇、オペラは、クラシック音楽の始まりとされる。クラシック音楽の歴史を紐解くと、オペラやバレエの伴奏だった器楽演奏が、脇役から主役になっていったという流れがある。というのも、オペラは「歌」がメインなので、イタリア語という言語文化圏を超えて広まっていくのは難しい。

 また、歌劇の出演者が多く、舞台美術も必要なため、上演コストが高くつく。そのため、興行主も器楽演奏を優先しがちになる。聴衆にとっても、日本でもオペラ鑑賞は、オーケストラに比べるとレベルが高く近寄りがたい印象があるのは否めない。

 しかし、「中国では学校教育でもクラシック音楽の発祥であるオペラをしっかりと教えている。深センでは、教育プログラムの一つとして深セン交響楽団や深セン音楽庁が親子向けのオペラ公演を主催していて、必ず満席になります。北京のインターナショナルスクールでは、ウィーン少年合唱団やウィーン国立歌劇場のメンバーを招聘し、一緒にオペラの『魔笛』を舞台で演じるという、なんとも贅沢なクラスがあるそうです」と松田氏は言う。

 深セン交響楽団の音楽監督、リン・ダーイエ氏は「情熱的なイタリア音楽と、中国人のパッションが合うのではないか。もっとオペラ関係のワークショップなどを増やしたい」と話す。世界で活躍する中国人のオペラ歌手は増えているが、そんな海外で学んだり活躍している中国人声楽家が、休暇などで母校に戻ってくるたび、後進の指導にあたるという好循環もあるという。

 さらに深センでは現在、南頭半島の先端、深セン湾を挟んで香港に面した地区に、新たにオペラハウスの建設計画が進んでいる。完成時期は未定だが、計画通りなら世界最大級の劇場となりそうだ。

コンサート終了の時刻には
閑散の東京オペラシティ

「環境は人を育てるといいますが、本当にそうだと思いますね」と松田氏。教育環境もさることながら、広い意味での都市環境も重要だ。

 深センでは、壁がガラスの多面体で構成され、夜には美しくライトアップされる深センコンサートホールが有名だが、「深センのコンサートホールから外に出ると、きらびやかな高層ビルが目に飛び込んでくる。あの環境で聴くからか、音色も豊かで輝かしく感じる。街全体で音楽を楽しむという雰囲気に満ち溢れている。これは欧米も同じです。ところが日本は……」と、松田氏は日本のコンサートホールの“周辺環境”について苦言を呈する。

 典型的なのが、オペラ劇場を含む3つの劇場を擁する新国立劇場。東京オペラシティという高層複合ビルに入っているが、入居している飲食店の多くは、ラストオーダーが21時から22時30分だ。21時までの公演が終わり、アンコールを経てホールを出て食事をしようにも慌ただしいことこの上ない。また、建物の外に出て余韻に浸ろうにも、眼の前はただ車が行き交うだけの殺風景な甲州街道と首都高速4号線。その割にタクシーは捕まらない――。

「ヨーロッパやアメリカならオペラが終わっても夜中の3時くらいまでレストランが営業しています。芸術を楽しむというのはそれも含めてのこと。中国もそれができるし、韓国だってそうです。もともと貴族らが集う劇場というのは、社交の場であり、ビジネスの場としても活用されていたわけですから。それに比べ、日本は新国立劇場だけでなくサントリーホールにしても、コンサート後の体験がシャビー過ぎます」(松田氏)

 こうした、総合的な芸術の楽しみ方や、オーケストラとホール、街の“あり方”についても、中国は「欧米からよく学んでいる」と松田氏は評価する。

 例えば、欧米には歌劇場と「座付きオーケストラ」とがセットになっていることが多い。

中国が欧米から学んだ
「座付きオーケストラ」のスタイル

 イタリアオペラ界の最高峰とされる歌劇場、スカラ座にはミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団があり、本業はオペラやバレエ公演の演奏であり、リハーサルの場所を毎回借りる必要もない。また、劇場のオフシーズンである6月から10月には世界中で演奏活動を行う。こうしたスタイルは、ウィーン国立歌劇場の管弦楽団員で組織されるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団しかり、米メトロポリタン歌劇場付属のメトロポリタン歌劇場管弦楽団しかり、である。

 日本では座付きオーケストラはあまり例がないが、欧米から直接学ぶというスタンスをとる中国では、上海交響楽団、中国国家大劇院管弦楽団、広州交響楽団……そのほか蘇州、西安、四川のオーケストラも座付きだ。

 中国の音楽界は、猛烈な勢いでグローバルスタンダードを吸収し、レベルアップしているのである。

「2020年5月、深セン交響楽団が日本で初めて公演します。実は、日本側がお金を出して中国のオーケストラを呼ぶというのは、歴史上初めてなんです。これまで北京、上海、広州などのオーケストラが日本で公演しましたが、ホール代も宿泊費もすべて先方が出していました。今回、初めて日本側が招いて、“来てもらう”わけです。アジアの、中国のオーケストラがここまでのレベルにあるということが実感できるはずです」と松田氏は言う。

 世界の歴史を振り返ると、音楽や芸術が花開くのは、成熟しきった国ではなく、その時代で最も発展中の国といえる。

「音楽業界だけでなく、文化庁をはじめ政府関係の人にも言いたい。これからの時代に合ったクラシックの伝え方、あり方を学ぶ先として、中国ははずせないですよ」と、松田氏は最後に強調した。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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