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中国・深セン、爆速進化の街でクラシック音楽文化が盛り上がる理由 - ASCII.jp

クラシック音楽の分野で今、世界で最も盛り上がりを見せている場所、それは中国・深センだ。「アジアのシリコンバレー」という異名をとり、ハイテク志向、未来志向のイメージが強い深センだが、なぜクラシックなのか。東京フィルハーモニー交響楽団の元広報渉外部長で、世界各国のクラシック音楽事情に詳しい松田亜有子氏に聞いた。

深センの夜景
ハイテク都市・深センで今、クラシック音楽が盛り上がりを見せている Photo:NI QIN/gettyimages

深センのクラシック公演は
40~50代の親子で常に満席

 40年間の平均成長率は22.4%と、人類史上で最も速い発展を遂げたといわれる中国・深セン。わずか40年前には人口3万人程度の小さな漁村だったが、1980年に改革開放路線を採用したトウ小平によって中国初の経済特区に指定されると、外資を呼び込んで急速な経済発展を果たした。いまや人口は1300万人にのぼり、2018年の市のGDPは2.4兆元(約34兆円)と、アジア第5の都市にまで上り詰めた。

 特に「アジアのシリコンバレー」と異名をとるテクノロジーの側面と、金融センターとしての先進性において評価を集める深センだが、このところにわかに注目を浴びているのが「カルチャー分野」だ。その一例がクラシック音楽で、世界で最も盛り上がりを見せている場所といっても過言ではない。

 深センには2007年にオープンした、1680席の大ホール、400席の小ホールからなる深セン音楽庁(深センコンサートホール)があり、ガラス張りの斬新なデザインで名所にもなっている。

 「深センで行われるクラシックコンサートでいちばん驚くのは、聴衆の年齢層です。中心は40~50代とその子供世代で常に満席状態。『今日はファミリコンサートだったかしら?』と錯覚するほど、家族連れが目立ちます」と語るのは、東京フィルハーモニー交響楽団の元広報渉外部長として「日中国交正常化45周年記念公演」など数々の演奏会の企画・広報を担当し、世界各国のクラシック音楽事情に詳しい松田亜有子氏だ。

「東京フィルハーモニーの聴衆の平均年齢が60.7歳、イタリアのオーケストラだと大体65歳程度なのに対し、ひと目で“若い”と感じます」(松田氏)

 それもそのはず、深セン市民の平均年齢は33歳。中国全土から集まってくる20~30代が人口の65%を占め、65歳以上の高齢者は全人口の2%しかいないという。この若さこそが成長の原動力でもある。

上流社会の仲間入りには
音楽は必須の教養

 それにしても、最新のデジタルテクノロジーに立脚した未来志向の街、貪欲な起業と投資の街という先進イメージの強い深センで、なぜクラシック音楽なのか。

「世界の歴史を見ても、経済が伸びて市民が豊かになると、音楽をたしなむようになります」と松田氏は解説する。

 例えば18世紀後半。当時、英国で起こった産業革命に加えて、1776年の米国独立宣言、1789年のフランス革命などの市民革命を経て、富裕な市民階層「ブルジョワ」が増加し、それまで王侯貴族のたしなみだったクラシック音楽を、市民が聞くようになった。また、モーツァルトやベートーヴェンなど、それまで貴族階級に仕えた音楽家がスポンサーから自立し、市民を相手にした演奏会収入による自由な創作活動に移行していった。

 こうした市民が音楽を楽しむ時代を、中国は今まさに迎えたというわけだ。

 特に中国の場合、毛沢東が主導した文化大革命(1966~76年)で社会主義文化の創生に務めた間、西洋音楽を含めて西欧文化全般が否定された歴史を持つ。このため文革時代を経験した今の60~70代は西洋音楽に馴染みがない一方、若い世代では「国際社会で信頼を得るために芸術・文化に関する教養が必須だ」という意識が高まっていると、松田氏は分析する。

「明治時代の日本も、近代国家として欧米列強の仲間入りを果たすべく、政府が西洋音楽を教育に取り入れ、西洋文化を国民に浸透させようとしました。ヨーロッパでも、社会的地位が高くなればなるほど、教養がないと真のコミュニティに入り込めない傾向があります。クラシック音楽はそんな教養の一つ。“新興のお金持ち”が上流社会の信頼を得て仲間入りをするために、グローバルスタンダードの“共通言語”として音楽は必ず身につけるべき教養なんです」(松田氏)

 そのため、深センの40~50代の親世代は熱心に、子供といっしょにクラシックコンサートに足を運んでいるというわけだ。

中国の小中学生はなぜ
受験期でもピアノをやめないのか

 高度成長期の日本がそうだったように、中国ではピアノ教室を中心とした音楽教育にも熱心だ。日本のピアノ人口は200万人とも400万人とも言われるが、中国は桁がひとつ違い、4000万人だという。都市部では当然、月謝も高いが、レベルも高い。

「ピアノ教室の月謝は小学生で平均4万円(週2回レッスン月8回)。ただし、著名な先生の場合は1回のレッスンが1万~2万円にもなるようです」(松田氏)

 また、中国出身の世界的ピアニストであるラン・ラン氏は、2008年に「ラン・ラン国際音楽財団」を設立し、2015年から隔年で「ラン・ラン・深セン福田国際ピアノ芸術フェスティバル」を開催するなどで、若い音楽家の支援や聴衆の開拓に力を入れている。さらにラン・ラン氏は、深センで2011年に3歳から13歳までを対象にしたミュージックスクールも開校し、年60回ものイベントを開催している。講師としてジュリアード音楽院をはじめとする世界一流の音楽学校の教授たちを招き、きわめてハイレベルな教育を提供しているという。

 中国と日本で違うのは、日本でピアノを習っている子の多くが、中学・高校の受験期になるとピアノをやめてしまうこと。受験勉強の邪魔になる、という理由が多いが、中国では、受験を理由にピアノをやめるという話は聞かないと松田氏は指摘する。

「というのも、中国の小・中学校では特殊活動に対する成績の加点があり、特殊活動にはバレエやピアノも入っているので、試験シーズンになると逆にピアノやバレエを習わせる親が急増するといいます。しかも、1週間に一度とかではなく、試験前となると毎日レッスンを受ける学生もいます」(松田氏)

ピアノは「おけいこ」ではなく
エリート教育の一貫

 さらに、「中国のエリートは留学先として米国のアイビーリーグ(ハーバード大、イェール大、コロンビア大、プリンストン大など米国北東部にある私立大学8校)やスタンフォード大学などを想定していることも、大きな理由でしょう」と松田氏。

 中世ヨーロッパの大学では、「人が持つ必要がある技芸の基本」として、文法、修辞学、弁証法の3学と、算術、幾何、天文学、そして音楽の4学科を、「自由7科:リベラルアーツ」と定義した。その流れを汲み、欧米の名門大学では教養科目として音楽が教えられている。そして入学試験も、日本のような単なるペーパーテストではなく、多面的・総合的な評価が行われるため、音楽を疎かにするわけにはいかない。現代中国において、ピアノは単なる「おけいこ」ではなく、エリート教育の一貫でもあるのだ。

 クラシック音楽の発展史は、その時代の経済の様相と無縁ではない。そして、「今の深センをはじめとする中国のクラシック音楽事情から見えてくるのは、経済だけでなく、21世紀は音楽においても中国を中心とするアジアの時代になるということ」と松田氏は言う。

 爆速で進化する深センから、成熟国家・日本が学ぶべきことは多そうだ。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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December 08, 2019 at 04:00AM
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